技術コラム

嫌気性生物処理トラブルシューティング

嫌気性生物処理は有機物負荷の高い産業排水処理において省エネルギーかつ効率的な処理方法として採用されています。しかし、その運転管理には様々な課題が伴います。本コラムでは、嫌気性生物処理で発生しやすいトラブルとその対策について詳しく解説します。

嫌気性生物処理でよくあるトラブルと原因

処理効率の低下

嫌気性処理の効率低下は、複数の要因が絡み合って発生します。最も一般的な原因はpHの異常です。メタン生成菌は6.8~7.2のpH範囲で最も活性が高く、pH6以下およびpH8以上では急速に活性が低下します。一方、酸生成菌の至適pHは5~6であり、両者のバランスが崩れると処理効率が著しく低下します。

温度も重要な要因です。嫌気性細菌には35~37℃が最適な中温菌と50~60℃の高温菌があり、それぞれ最適温度域が異なります。特に20℃以下ではメタン発酵速度が急速に低下するため、冬季などの低温期には注意が必要です。ただし、長期間の低温運転により、低温条件に適応したメタン生成細菌が集積し、活性が増加することもあります。実験では、20℃における保持生物膜による酢酸と水素を利用したメタン生成活性が、運転開始時と比較して35倍、15倍に増加したという報告もあります。

栄養バランスも見逃せません。嫌気性菌は好気性菌に比べて増殖収率が低いため栄養塩類の必要量も少ないですが、適切なCOD:N:P比を維持することが重要です。高負荷運転(0.8kg~1.2kgCOD/kgVSS/d)では350:7:1、低負荷運転(0.5kgCOD/kgVSS/d以下)では1000:7:1が適正とされています。一般的な排水処理では、BOD:N:P=100:5:1以上であれば窒素、リンは十分と判断されますが、嫌気性処理ではより少ない栄養塩で運転可能です。

メタン生成量の低下

メタン生成量の低下は、処理効率の低下と密接に関連しています。メタン生成菌はpH依存性が極めて高く、中性付近でのみ十分に機能します。また、温度条件も重要で、中温菌と高温菌では最適温度が異なります。高温菌は中温菌よりも25~50%程度速いメタン生成速度を示しますが、温度管理が難しいという課題があります。

嫌気処理では、有機物がメタンと二酸化炭素に分解されます。例えば、グルコースからのメタン生成は次の反応式で表されます:
C₆H₁₂O₆ → 3CH₄ + 3CO₂

阻害物質の存在もメタン生成を妨げる要因です。特に揮発性有機酸とアンモニアは重要な阻害物質です。揮発性有機酸によるメタン生成阻害は、pH 7.5付近で総揮発酸として2000 mg/L(酢酸として)以上蓄積すると発生します。運転指標として、有機酸濃度/アルカリ度の比を0.3~0.4以下に保つ必要があり、0.8以上になると機能障害を起こすとされています。

スカムの発生

スカムは嫌気性処理において頻繁に発生する問題です。特に油脂分を多く含む排水を処理する場合、油脂分が浮上してスカムを形成します。また、ガス発生量が増加すると、微細な気泡が固形物に付着して浮上し、スカムの形成を促進します。

スカム発生のプロセスは比較的速く進行します。底泥直上水が嫌気的になってからガス発生が始まり、数時間後にスカムが急激に浮上することがあります。また、ガス生成速度は水温に大きく影響され、30℃と20℃では約4倍の差があります。これは夏季にスカムトラブルが増加する一因です。

スカムは処理効率の低下だけでなく、配管の閉塞や発酵槽の装置トラブルの原因となります。そのため、発生初期段階での対策が重要です。

悪臭の発生

嫌気性処理では、硫化水素や揮発性有機酸、アンモニアなどの悪臭物質が発生します。特に硫化水素は強い悪臭を放ち、周辺環境への影響だけでなく、設備の腐食や作業者の健康被害の原因にもなります。

硫化水素は、排水中に硫酸塩(SO₄²⁻)が存在する場合、嫌気環境下で硫酸塩還元菌により還元反応を起こして発生します。この反応は次の式で表されます:
CH₃COO⁻ + SO₄²⁻ → 2CO₃²⁻ + HS⁻

硫酸塩還元菌は30℃付近(生育範囲15~45℃)、pH 6.5~8.0(生育範囲3.4~9.5)で最も活性が高くなります。これらの条件が揃うと、硫化水素の発生量が増加する可能性があります。

悪臭の発生は処理が不安定になっていることを示す重要なサインでもあります。特に揮発性有機酸の蓄積は、メタン生成菌の活性低下を示唆しています。

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汚泥の異常

嫌気性処理では、グラニュール状の汚泥を形成させて、汚泥濃度を50,000 mg/L程度と高く保持できることが特徴です。しかし、環境条件の変化や阻害物質の流入により、汚泥の膨化や解体、流出などの問題が発生することがあります。

特に嫌気性菌は増殖速度が遅いため、一度汚泥が流出すると回復に時間がかかります。そのため、汚泥の状態を常に監視し、異常の早期発見と対策が重要です。

トラブル発生時の対応と解決策

pHの調整

pHの異常は、酸生成とメタン生成のバランスが崩れることで発生します。酸性に傾いた場合は、炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤を添加してpHを中性付近に調整します。アルカリ性に傾いた場合は、塩酸や硫酸などの酸を慎重に添加します。

ただし、pH調整は一時的な対策であり、根本的には有機酸濃度/アルカリ度の比を0.3~0.4以下に保つことが重要です。この比率が0.8以上になると機能障害を起こすため、定期的なモニタリングが必要です。

温度の調整

嫌気性処理では、活性を維持するために基本的に反応タンクの加温が必要です。特に20℃以下ではメタン発酵速度が急速に低下するため、冬季などは加温装置を用いて適切な温度を維持します。中温菌の場合は35~37℃、高温菌の場合は50~60℃が最適温度です。

ただし、加温エネルギーは嫌気性処理における消費エネルギーのほとんどを占めるため、断熱対策や熱回収システムの導入など、エネルギー効率を高める工夫も重要です。また、低温条件に適応した微生物群を育成することで、加温コストを削減できる可能性もあります。

栄養バランスの調整

嫌気性菌の増殖に必要な栄養素が不足している場合は、適切な栄養剤を添加します。窒素不足の場合は尿素やアンモニア塩を、リン不足の場合はリン酸塩を添加します。

適正なN/P比は約7、C/N比は最低25とされています。これらの比率を維持することで、安定した処理性能を確保できます。ただし、過剰な栄養塩の添加はコスト増加や二次汚染の原因となるため、必要最小限の添加量を見極めることが重要です。

阻害物質の対策

阻害物質の影響を軽減するためには、まず流入水の水質管理が重要です。重金属や硫化物、アンモニアなどの阻害物質が含まれる排水は、前処理で除去するか、希釈して濃度を下げる対策が有効です。

特に硫化水素対策としては、鉄塩の添加が効果的です。鉄イオンは硫化物と反応して不溶性の硫化鉄を形成し、硫化水素の発生を抑制します。また、生物脱硫技術を導入することで、発生した硫化水素を処理することも可能です。

揮発性有機酸の蓄積は、メタン生成菌の活性低下を示す重要なサインです。有機酸濃度/アルカリ度の比を定期的に測定し、0.3~0.4以下に維持することが重要です。

スカム対策

スカムの発生を防ぐためには、油脂分の多い排水は前処理で除去することが効果的です。また、適切な攪拌や表面スキマーの設置により、スカムの蓄積を防止します。

スカムが発生した場合は、物理的な除去が基本ですが、油脂分解菌の添加や消泡剤の使用も効果的です。ただし、消泡剤は微生物活性に影響を与える可能性があるため、使用には注意が必要です。

水温管理もスカム対策として重要です。特に夏季は水温上昇によりガス生成速度が増加し、スカムが発生しやすくなります。必要に応じて冷却装置の導入や、運転負荷の調整を検討しましょう。

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トラブルを未然に防ぐための運転管理

嫌気性処理のトラブルを未然に防ぐためには、日常的な運転管理が重要です。特に以下の点に注意が必要です。

  1. 水質分析:pH、揮発性有機酸、アルカリ度、CODなどの水質項目を定期的に測定し、異常の早期発見に努めます。特に有機酸濃度/アルカリ度の比は重要な運転指標です。
  2. 負荷管理:有機物負荷が適正範囲内にあるか確認します。UASB法では容積負荷を10kg-CODcr/m³/day以上と高くとることができますが、排水性状に応じた適正な負荷設定が重要です。
  3. 温度管理:反応槽の温度を適正範囲(中温菌なら35~37℃、高温菌なら50~60℃)に維持します。季節変動による温度変化に注意し、必要に応じて加温または冷却を行います。
  4. ガス発生量の監視:メタンガスの発生量と組成を監視することで、処理状態を把握できます。メタン含有率の低下は処理不良の兆候である可能性があります。
  5. 汚泥の観察:グラニュール汚泥の状態を定期的に観察し、異常がないか確認します。顕微鏡観察により、微生物相の変化を早期に発見することも有効です。

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日本技建は、40年にわたりオイルスキマーやスクリーンから汚泥脱水機までの一貫した設備で排水処理設備の最適化のご提案を行ってまいりました。また当社独自の製品である「ろ布 IKロンメッシュ」により高効率な排水処理設備機器のラインアップが多数ございます。また、当社では排水に関する「お悩み相談サービスをご提供しています。排水処理工程に関するお困りごとがございましたら、まずはご相談ください。

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